久雅side


「やっと泣いてくれたか...」
ずっと心配していた彼女。今やっと本当の姿を見せてくれた。
これで少しは気持ちが晴れただろうか。俺は彼女の支えになれただろうか。先生と生徒でいようとしてもいつでも考えるのは彼女のことだった。
「...先生」
静かに教室に入ってきたのは広瀬。
「お前は何処にでもいるな」
笑いながら言う。この様子だと最初から話を聞いていたのだろう。
「俺、遠野さんはいつでも笑ってる人だと思ってた。いつも楽しくて幸せな人だって...。でも違ったんですね...」
「...悲しい顔を見せたくないから遠野は笑ってたんだ。広瀬みたいにいつでも笑ってる人だって思ってくれてる方が遠野にとっては嬉しいんじゃないか?」
「俺には先生の前で思うままに泣いた後の遠野さんの方が幸せそうに見えました」
「...そうか」
「先生は遠野さんが見せない部分を想って好きになったんですね...。そっか...」
広瀬は悔しそうな顔でそう呟く。
「なんであんなこと言ったんですか」
「...先生と生徒でいる方が遠野のためになるだろ」
「先生バカですね」
「は!?」
生徒に生意気な口をきかれ、つい大声が出た。
「相手が誰だろうと好きな人と結ばれる方が幸せに決まってるじゃないですか」
「広瀬...」
「もし遠野さんがこの先、先生に気持ちを伝える時が来たら絶対受け止めてくださいね」
「...いいのか?」
「悔しいけどそうなってしまったら仕方ないです。先生が原因で遠野さんを泣かせるなんて許しませんから」
「あぁ、分かってるよ」
「あーぁ!こんな大人に負けるなんて思ってなかったです!」
大きな声で嫌味を言う広瀬。
「まぁしょうがねぇよなぁ。俺は魅力的な男だから」
「ほんっとムカつく」
「俺一応お前の担任でもあるんだけど?」
「先生としては好きです。でも男としては嫌いです」
「ははっ。素直だな」
「先生も俺くらい素直になったら良いんですよ」
「...そうだな」
高校生の真っ直ぐな生き方が羨ましく感じた。
「それじゃあ俺は帰ります」
「あぁ。気をつけてな」
広瀬は俺に背を向けて歩きながら手を振る。
「ありがとうな」
この声は広瀬に聞こえただろうか。
もう諦めようと思った。忘れようと思った。しかし広瀬の言葉で俺はもう少し遠野への恋心を持ち続けようと思ったのだった。