「風磨くん...!あの、痛い....」
「あ、ごめんね」
風磨くんは握っていた手を離す。下駄箱の所まで私たちは来ていた。
「あの...先生のこと誰にも言わないで欲しい...。お願い」
先生が悪く言われてしまうかもしれないことに耐えられなかった。
私の言葉に風磨くんは少し怒った表情をした。
「遠野さんは先生が好きなの?」
「...うん」
肯定してしまった。先生が隠すことなく自分の気持ちを言っていたのに私は隠すということはしたくなかった。
「遠野さんが気持ちに応えたとして、もしこれが他の人にバレたら咎められるのは先生なんだよ。それでも良いの?」
それだけはダメだった。だから決めていたことがある。
「私の気持ちは先生には伝えない。応えちゃダメだから...」
「じゃあどうして先生をもっと拒絶しないの」
その理由は分かっていた。好きだから離したくなかった。気持ちに応えてはいけないと思いつつ心では先生を求めていた。自分の弱さが生み出した結果だった。
「そうするべきなのは分かってたつもりだった...。でもそう出来なかった自分がいる...。ごめん...」
風磨くんは小さくため息をつく。
「...遠野さんを苦しませたいわけじゃないんだ。でも先生を好きなのはやめた方がいい。遠野さんのためにも、先生の為にも」
「...うん。分かってる...。ごめん...」
「...俺は今でも遠野さんが好きだから」
そう言うと風磨くんは靴を出し帰って行った。
「...ごめん...」
先生の気持ちに応えられないと言いながら好きでいること、私のことを心配してくれている風磨くんの気持ちを無下にしていること。その全てに申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
先生にもらったネックレスに触れながら私は涙を流した。