目線を尚くんに向ければ、彼はなぜか険しい表情で私をじっと見据え、口を開く。


「お前は可愛い。四十八人のアイドルの真ん中にいてもまったく違和感ないくらい可愛い」

「は?」


突然なんら関係のない、しかも表情とまったく合っていない言葉が飛び出し、私は間抜けな声を漏らした。

尚くんは固い顔をしたまま続ける。


「そのことを自覚しておいてくれ。くれぐれも、新入りに近づきすぎるなよ」


そう言った彼はテーブルの上に畳んだ新聞を置き、腰を上げて洗面所のほうへ向かっていった。

ひとり残された私は、ぽかんとして彼の言葉の意味を考える。

どうして新人さんに近づいちゃいけないんだろう? バイトの身なんだから、おしゃべりしていないで真面目にやれっていう忠告かな。

それか、まさか……独占欲の表れ?

一瞬、自惚れた考えが浮かんだものの、きっと違うだろうとすぐに思い直す。これまで男性との接し方を制限されたことはないもの。

おそらく前者が正解だなと結論づけた私は、今日もしっかり仕事をこなそうと気を引きしめて、残りのクロワッサンを口に放り込んだ。