尚くんと結婚する際、心に誓ったことがある。

それは、〝彼に好きな人ができたら、潔く離婚しよう〟ということ。

『女との遊び方もとっくに忘れた』と言っていたとはいえ、本気で愛する女性がいつ現れるかわからない。私はそういう対象ではないのだから。

尚くんは、まだ独り立ちできない私を支えるために、家族になろうとしてくれているだけ。彼のことを縛ってはいけない。

だから、そうなったときのために、私は早く自立することを目標に頑張ろう。勉強に励み、彼に甘えてばかりいないでバイトも始め、家事もこなそうと決めたのだ。

その努力は、現在も進行中なのに。


「尚くん、朝だよ! 起きてー」


私は今日も、時間になっても眠りこけている旦那様を揺すっていて。こういう、ふたりで過ごす平穏な日々が一生続いてほしいと強く願っている。

こんな調子で離婚なんて、百パーセントできそうにない。

ふとしたときに苦しい想いが込み上げるけれど、今は考えても仕方のないこと。この無防備な社長さんを起こすことが最優先だ。

カーテンを開けた窓から差し込む光に助けてもらいながら、まだ起きようとしない彼に大きな声で呼びかける。