早熟夫婦〜本日、極甘社長の妻となりました〜

「尚くんはもうひとりじゃないんだよ、ってこと。……もしも尚くんにまでなにかあったら、私は今度こそ生きていられない」


最後のほうは声が弱くなり、自然と目線を落としていた。

大丈夫だと思っていても、人の命に絶対はない。明日も当たり前にいると信じて疑わなかった大切な人が、呆気なくいなくなることがあると、私はよく知っている。

尚くんにだってなにがあるかわからないのだから、心配性になってしまうのも許してほしい。

ダークグレーのスラックスをぼんやりと目に映していると、頭に優しい手の重みとぬくもりを感じた。目線を上げれば、今なによりも大切な彼が眉を下げて微笑んでいる。


「……そうだな、ごめん。お前のために、元気でいないとな」


彼は私の気持ちをすべて悟ってくれたのだろう。欲しい言葉をもらえて、安堵して微笑み返した。

たぶん、自分はこういうところが面倒臭い女だと思う。それなのに、結婚までして寄り添っていてくれるこの人には、一生かかっても感謝しきれない。

とりあえず妻の役目を果たすことで恩返ししていこうと、話が一段落したところで夕食の準備を再開しようとしたとき、尚くんが「でも」と話を続ける。