賑やかな一日の始まりとなり、皆浮き足立っていたが、しばらくするといつも通り仕事に集中していた。

午後一時を過ぎ、オフィスの一角にある休憩スペースでコーヒーを淹れていたとき、冴木さんがやってきた。

淹れたものを渡そうとすると、彼は「いいよ」と制し、意味ありげに口角を上げて言う。


「キョウちゃんの好きな人って、やっぱり社長だったんだね」


どうやら感づいていたらしい。私はちょっぴり気まずい笑みを浮かべて肩をすくめる。


「気づいてましたか」

「そりゃあね。だから、社長にはきっと敵わないなって思ってた。人徳とか、懐の広さとか、俺にはまだまだ越えられないから」


冴木さんも苦笑するけれど、その表情はどこか清々しくも見える。

尚くんが彼と面接したとき、すでに冴木さんの家庭の事情も知っていたのだと、一昨日の夜に話していた。

おそらく、尚くんが信頼できる人だと初対面から感じ取ったから、冴木さんも打ち明けたんじゃないだろうか。

仕事に対する姿勢だけじゃなく、そういう部分も含めて、彼は尚くんを尊敬しているのだろう。

でも、そんな冴木さんだって魅力的な人であることには違いない。