リビングの開放感のある窓の向こうに、大きな光の花が豪快な音を立てて咲いている。

ニ十階のこの部屋からもそれなりに見えるが、もっと近くで、大切な人と見ていたら、今とは比べ物にならない感動を覚えていただろう。

……いや、あの子となら、いつものこの部屋から眺めたって絶対に楽しかっただろうな。

やけに広く感じるひとりきりの部屋で、俺は花火から顔を背け、おもむろに歩き出した。


杏華はきっと嘘をついている。いつもは目を見て話すのに、おばさんの墓参りをした辺りから急に目を合わせなくなったから。

わかりやすいんだ、あいつは。ドタキャンするタイプではないし。

ただ、他の人と会うというのは本当かもしれない。もしそうだとすれば、相手は瑠莉ちゃんではなく……。

ぼんやり考えながらキャビネットの前で立ち止まり、自室にしまってあった鍵を一番上の引き出しの鍵穴に差し込む。

カチャリと小気味よい音がして鍵が開き、中に眠らせていた一枚の用紙を取り出した。


約一年前、彼女を一番そばで守ると心に決めた、俺の誓いを具現化したものでもある婚姻届。

これを出さずに済んでよかった、などと思う日が来ないことを祈っているのだが──。

この紙切れと共に、俺の数年間の想いも捨てなければならないときは、すぐそこに迫っているのかもしれない。