「ほんのちょっと喉が痛いけど、たぶん乾燥かな。平気だよ」

「そうか?」


怪訝そうにする尚くんは、こちらに手を伸ばし後頭部を支える。そして、ものすごくナチュラルに、前髪を掻き上げた額を私のそれにコツンと当てた。

トクン、と胸が鳴る。私が小さい頃から、尚くんは熱があるかを確かめるために、この原始的なやり方をするのだ。

勘弁してほしい。もう子供じゃないんだから、触れられたらドキドキしちゃうんだよ。

とはいえ拒否もしたくないので、ぎゅっと目を瞑っておとなしくする。が、なんだか今日はやけに長い。

そっと目を開けてみると、額を当てたままの彼の、伏し目がちな顔が間近にある。息遣いを感じるし、少しでも動いたらキスだってできそうだ。

なんだろう。私たちの数センチの間に漂う、この甘くて苦いビターチョコみたいな空気は。


「尚、くん?」


心拍数が上がるのを感じつつ戸惑いの声をこぼすと、尚くんはなにかを堪えるように軽く下唇を噛み、額を離した。

つい今しがたの空気は呆気なく消え、彼はどことなく覇気のない笑みを浮かべる。