指差されたほうにあったのは、ちょっぴりレトロなおもちゃ屋さん。あそこに売っている、大きな宝石もどきのプラスチックがついたアルミの指輪にしろということか。

私はむうっと頬を膨らませ、尚くんはケラケラと笑っていた。

あのあと、彼は本当におもちゃの指輪を買ってくれて、なんだかんだでとっても喜んだことを覚えている。今思えば、胸キュンな出来事だな……。


街中に軒を連ねる、高級感漂うジュエリーショップを横目に、私は昔の記憶を蘇らせていた。

母の命日である今日、お墓参りのためのお花を買うついでに、尚くんとみなとみらいの街を散策している。

赤レンガ倉庫や大きな観覧車、白い船がたゆたう海。久々に間近で見るそれらは、しばし現実を忘れさせてくれる。難しいことも、嫌なことも。


「こうやってぶらぶらするの、久しぶりだね」

「ああ、最近スーパーくらいしか行ってなかったからな」


そんなたわいのない会話でも、心が穏やかになる。

なにより、人混みではぐれないようにと、旦那様が手を繋いで歩いてくれるのが一番の癒しだ。真夏なので手汗が心配だけど。