慌てて手と首を横に振ると、冴木さんはちょっぴりいたずらっぽく口角を上げて呟く。


「まあ、ふたりきりならなにするかわからないけど」

「え」

「今はキョウちゃんにお誘いをしようと思っただけ。今度の花火大会、一緒に行かない?」


独り言のように口にされたひとことにギョッとしたものの、直後にされたお誘いで、再び気まずさが舞い戻ってくる。

花火大会は尚くんと行く約束をしているし、しかも告白しようと決めているのだ。こればっかりは変えられない。


「ごめんなさい、先約があって」

「あー……やっぱり遅かったか。残念」


しょんぼりする冴木さんには本当に申し訳なく、もう一度「すみません」と謝った。

すると、彼は探るような瞳を向けてストレートに問いかけてくる。


「好きな人と行くの?」

「あ、え、えーっと」


あからさまにドギマギしてしまう自分が憎い。ほら、冴木さんも呆れたように笑っている。


「キョウちゃんは正直だね。……妬けるな」


ぽつりとこぼされたひとことは実感がこもっていて、胸がきゅっと締めつけられる。

彼は気を取り直すように背筋を伸ばし、「でも、まだ諦めないから」という力強い声と、わずかな笑みを残して踵を返した。

ああ、複雑な気分……。こんなに想われたことがないから、本当に戸惑ってばかりだ。