なんだ、そっか……。そうだよね、途中で寝ちゃったくらいだし。覚えていないならよかったじゃない。いろいろ心配して損した気分。

でも……胸にチクリと棘が刺さって取れないような感覚にもなる。あんなにキスを交わしたのに、その事実を忘れられているのは、やっぱり切ない。

尚くんにとって、あれはただの酔った過ちだったのだろうか。それとも、酔っていたからこそ本当の想いが溢れたの──?

よし、すべては告白のときに明らかにしてやろう。そんな決意を胸に、彼への問いかけを渦巻かせつつも、いつも通りに接するよう努めた。


土日はゆっくりと休み、月曜の今日は朝から出勤している。

トイレ前の廊下の掃き掃除をしていたとき、「おはよう」という声がした。パッと顔を向けた瞬間、ドキリとする。

声をかけたのは、こちらもほうきを手にして微笑む冴木さんだ。金曜日の告白を思い出して若干緊張しつつ、「おはようございます」と挨拶を返した。

気まずくて目を合わせられず、ほうきの柄をぎゅっと握る私を見て、彼は苦笑を漏らす。


「そんなに警戒しないで。襲いかかろうってわけじゃないから」

「そ、そんなこと思ってませんよ!」