──私は今、夢を見ているのだろうか。大好きな旦那様と、骨抜きにされるくらいのキスをしているなんて。


部屋に着き、靴を脱ぐのももどかしくリビングダイニングに上がった途端、尚くんは耐えられなくなったように私の唇を塞いだ。

そばにあったこのソファに優しく倒され、艶めかしいキスは激しさを増す一方だ。

静かな部屋に響くリップ音とお互いの吐息が、私の身体の奥に眠る得体の知れないなにかを疼かせる。


「んっ……な、おく……っ」


うまく呼吸ができなくて、助けを求めたいのに、尚くんは一向にキスをやめようとしない。

苦しさと気持ちよさが交じり合う不思議な感覚に、意識が遠退きそうになる寸でのところで、ようやく唇が解放された。

水から上がったみたいに、ぷはっと息を吸うと、私を見下ろす彼がクスッと口角を上げる。


「下手だな、キス」


年上男の余裕がひしひしと感じられる笑みが、ちょっぴり憎らしい。