「尚くん、だいぶ酔ってるでしょ」

「……かもな。欲情してるし」


やっぱり酔ってるんだ、と納得しかけたとき、彼の口から飛び出た聞き捨てならないひとことに耳を疑った。

私は目を丸くして、身体を硬直させる。


「はっ?」

「これをどうにかできるのは、お前しかいない」


熱を持て余したような声で呟く尚くんに、今までにないほど激しく心臓を突き動かされる。

嘘……この私に欲情してるっていうの? たとえお酒のせいだとしても、そんなふうに思われていることを嬉しく感じてしまう。

こんな私のほうが、よっぽど彼を欲しているんじゃないだろうか。

タクシーの運転手さんがいることも、マンションが近づいてきたこともお構いなしに、私はひたすら彼を見つめ続ける。


「……私で、いいの?」


信じられない気持ちで、ぽつりとこぼした。尚くんは、優しさの中に獣のような強さを秘めた笑みを浮かべ、私の頭を引き寄せる。


「キョウがいい」


唇が重なる直前に、甘美な声がそう囁いた。