グラスに注がれたオレンジジュースを受け取り、やるせない小さなため息と独り言を吐き出す。


「子供感がハンパない……」

「あと少しの辛抱だ」


隣から声をかけられて振り向けば、空のグラスを手にした社長様が、カウンターに肩肘をかけて寄りかかった。どうやら社員とひと通り話し終わって、ひと息つきに来たみたい。

グレーの開襟シャツを羽織った、きれいめカジュアルな今日の私服姿も素敵だ。まあ、朝から思っていることだけれど。

尚くんは赤ワインを頼み、私に大人の余裕を漂わせた笑みを向ける。


「今度、ノンアルコールのカクテルでも作ってやるよ。アマレットを使ったやつ」

「アマレット?」


聞いたことのないその名前を繰り返すと、彼はちょっぴり得意げに口角を上げる。


「杏の種が原料の、アーモンドの甘い香りがするシロップだ。ぴったりだろ、〝杏華〟に」


ふいに名前を呼ばれただけで、ドキッとしてしまった。いつもは〝キョウ〟だから、たった一文字ついただけでも特別な感じがする。

些細な約束事すらも嬉しく、口元を緩めて「楽しみにしてますね」と返した。