髪も、服も、私たちはいつも同じ香りを纏っているのだ。今だって、他の男性の痕跡なんてついていないと言い切れる。尚くんが掻き消す必要はない。


「……私、尚くん以外の匂いはしないと思うよ」


安心する温もりに包まれる中でぽつりと呟くと、ほんの少しの間があったあと、私を抱きしめる腕の力が強められた。


「……そうだよな。悪い、変なこと言って」


どこか嬉しそうで、けれどそれだけではない、複雑な感情が入り混じったような声が聞こえてくる。

尚くん、どうしたんだろう。うまく説明できないが、なんだかいつもと様子が違う気がする。

彼の考えていることを読み取れないのは、生きている年数の違いからなのか、男と女だからなのか。

しっかりと回されている腕に自分の手を重ねつつ、私はなんとも言えないもどかしさを抱いていた。