嘘、匂いなんてする!? 冴木さんは移り香がするほどの香水はつけているように感じないし、この家で使っている柔軟剤の匂いしかしないけど……!?

肩の辺りを必死にくんくんしていると、小さな笑い声が聞こえてくる。

尚くんは呆れが混ざった調子で「鈍感なやつ」と呟き、おもむろに腰を上げた。

逆に、あなたが匂いに敏感すぎません?と心の中で反論していた、そのとき。

背後から腕を回され、しっかりと抱きしめられた。突然身体が密着して、息が止まりそうになる。


「わからなくていい。こうやっていれば掻き消せるから」


耳元で、甘さとほろ苦さが混ざったような声が響き、私はよく意味を理解できないながらも、胸が鳴るのを感じた。

それと同時に、爽やかな果実の香りが鼻をかすめる。ふたりで使っているシャンプーの香りだ。

尚くんはシャンプーにも特にこだわりがなく、私が愛用しているものを一緒に使うという大雑把さ。でも、それがちょっぴり嬉しかったりもする。