私のことを“梅”、そう呼ぶ人は世界で1人しかいない。
「きょーくん⋯」
ちょうど前から真帆ちゃんと歩いてきていたきょーくんがいた。
この渡り廊下を通るということは、中庭で2人でお昼を食べていたんだろうか。
並ぶ2人を見てギュッと胸が痛くなる。
「友達?」
すぐそばまで歩いて来たきょーくんは私の隣にいる山野くんを見てそう言った。
いつものきょーくんなのに心做しか表情が固く見えるのは気のせいだろうか。
「うん⋯友達」
「そう」
「うん⋯」
べつに悪いことをしている訳でも喧嘩をしている訳でもないのにピリッとした空気が一瞬、ほんの一瞬だけ私ときょーくんの間に流れた。
だけどそれも私の気のせいかと思うほどにふわりと、王子様みたいに微笑んだきょーくん。
「またね、梅。行こう、真帆」
「あっ、うん。またね小梅ちゃん」
そう言って横を通り過ぎていく2人に、
私は何も言えずに固まった。



