第5話 因縁

5年前

まだ探偵だった頃。

俺は胸糞悪い事件に巻き込まれていた。

老夫婦からの依頼で孫娘の『明美』をある男から助け出して欲しいと依頼された。

明美の両親はまだ幼い頃に事故で二人とも亡くなっていたので、母方の祖父母が両親の代わりに人一倍愛情をかけて育て上げ、今年短大を卒業したばかりだった。

その甲斐があってか明美は優しい純粋な娘に育っていた。

それが裏目に出たのか悪い男に簡単に騙され、男の部屋に軟禁されていると言う。

老夫婦は助けに行ったが
「二人の恋愛の邪魔するな。もう明美は大人なのだから口出し無用。明美もお前達にはもう会いたくないと言っている」と言われて強引に追い返されたらしい。

警察にも相談したが、民事には介入出来ないと、取り合ってくれない。

一応地域のお巡りが訪ねて行ったが、明美自身から
「祖父母は心配のし過ぎ。私はもう成人してるので放っておいて欲しい」という報告を受けたので、警察ではこれ以上何も出来ないと言われた。

可愛い孫娘の明美がそんな事は言う訳ないと祖父母は信じない。

そこで俺が依頼された。

俺とマサはまず男の素性を調べた。



とんでもない男だった。

高校生の時に暴走族に入り、婦女暴行と傷害で少年院に入っている。

2年して出てくるとある組織の準構成員になると直ぐに暴行と殺人未遂で刑務所に7年入っていた。

そして今回の監禁だ。

「一筋縄じゃいきそうにないな」とマサがため息をつく。

「早く助け出さないと明美さん、壊されちゃうぜ。もう手遅れかもしれないが?」と俺は怒りが込み上げてきた。

「女に手を出す奴は許さない。生きてる価値などない」

しかし

『奴』は用心深い。

「どうする? 拳ちゃん」とマサは聞いた。

俺は考える時の癖で顎を撫でながら
「罠を仕掛けるか」と言った。

「どんな?」とマサが聞いてきたので、俺は計画を話した。

マサはその話を聞くと
「そんな事したら、拳ちゃんが『奴』に恨まれるぜ。何か他の方法にした方が・・・」

しかし、手間取ってる暇はない。

「心配するな。奴はどうせまともに人の話など聞く男じゃない。俺の事より明美さんを早く助け出さないと、これ以上爺さん婆さんを泣かす訳にはいかないだろ」とニヤリと笑ってやった。

マサは知ってる。

俺がこの笑いをした時はもう決定してしまっている事を。

「そうだな。わかった」と、マサも納得した。

俺達は早速動き出す。

『奴』の弟分でチンピラの『ユウジ』と言う男に会いに行く。

この男もどうしようもない男で、女を食い物にしながら生きている。

どうやら明美の件でも一枚噛んでるようだ。

ユウジは直ぐに見つかった。

キャバクラで豪遊していた。

どうせ女に貢がせた金だろう。

成る程見た目は爽やかで女受けは良さそうに見えるが、よく見ると目が腐ってる。

「何で女はこんな男に騙されるんだ?」とマサが言った。

マサはお世辞にも女にもてるタイプとは言えない。

中年太りで腹が出ているし、頭も寂しくなって来ている。

「少し痩せろよ」と俺が言うと

「俺は拳ちゃんと違って頭脳派だから」とか言いやがる。


俺達はユウジがキャバクラから出て来た所を捕まえ、車に放り込んだ。

「お前ら、俺にこんな事してただじゃすまないぞ。俺の兄貴は・・・」

俺はボディにアッパーを入れてやった。

「よく喋る口だな。その口で女を騙してるのか」と俺は睨み付けた。

ユウジは俺がただ者ではない事を悟ったのか大人しくなる。

元々ユウジは武闘派ではない。いつも『奴』の後ろにくっついて吠えてるだけだ。

俺達はユウジを町外れの廃屋になった倉庫に連れて行き、椅子にくくりつけてから『奴』に電話させた。

「兄貴、助けてくれ。変な奴等に拉致された」と泣き声で訴える。

俺は携帯を取り上げ
「ユウジを取り返したかったら、一人で町外れの○○倉庫まで来な。早く来ないとユウジがどうなるかわからんよ」と言ってやった。

『奴』は怒り狂って
「てめえ、待ってろ。ユウジに指一本触れてみろ必ず殺してやる」と喚いている。

つまり『奴』とユウジはそう言う関係だ。

気持ちが悪い。

だからユウジは女に非情になれるのだろうか?

「直ぐに助けに来てくれるってさ。お前の恋人」とユウジに言ってやった。

ユウジは怒りのこもった目で俺を睨み付ける。

俺は無視してマサに目配せした。

マサは頷いて倉庫から出て行く。

30分程して『奴』がやって来た。