第4話 最強 明日香

病室の前には警官が24間体制で警護している。

『奴』が再び襲ってくるのを警戒しての事だ。

鬱陶しいから止めてくれと武田刑事に訴えたが聞き入れて貰えない。

相変わらず明日香は毎日やって来て、何かと慎ましく世話をしていく。

まるで世話女房気取りだ。

これも鬱陶しいが、何かと役立っているので断りきれないでいる。

まぁ言った所で聞くような女じゃないが・・・


マサがお見舞いに来て明日香を見ると少し驚いていたが
「拳ちゃん、結婚したの?」と真面目な顔して聞いて来た。

明日香は
「うちの旦那がいつもお世話なってます」
何て言いやがる。

マサは
「若くて美人の奥さんじゃないか。羨ましいぞ。拳ちゃん」と信じてしまった。

明日香は美人と言われて嬉しそうだ。

「おいおい明日香。いい加減にしろ」と言ったが

「またまた照れちゃて。拳ちゃん」とからかう。

俺は口では明日香に勝てないのはもう分かっていたので黙っていた。


マサは『奴』の情報を持って来たので明日香に席を外してもらい報告を聞くことにした。

「『奴』はかなりヤバイ所に逃げ込んでいるようだぜ。俺達じゃ、ちょっと手が出せそうにない。もう警察に任せた方が良いんじゃないか?」とマサは泣き言を言った。

「ヤバイ所? 関係無い。俺は二度も入院させられたんだぜ。借りを返さないと生きている資格は無い」と言った。

「やっぱりな。拳ちゃんならそう言うと思った。俺も手を貸すよ」

「そうこなくっちゃ。マサ。でも相当ヤバイんだろ。良いのか?」

「拳ちゃんには借りが沢山あるからしょうがない」と泣きそうな声で言った。

それから細かい打ち合わせをしていると、武田刑事がまたやって来た。

「おやおや、来客中でしたか? うん? あなたはマサさんですね。昔のお仲間の。悪巧みはいけませんよ。警察に任してください」

マサの事まで調べてやがる。

「いや、友人として見舞いに来てくれただけ、なあマサ」と俺が言うと

「ああ、古い友人なもんで見捨てる訳にもいかないでしょ? 刑事さん」とマサが答える。

武田刑事は
「だと良いですがね」と言ってマサの顔を睨み付けた。

「そんな怖い顔で見ないで下さいよ。俺は気が小さいんだから」とマサは本気で怖がっているようだ。

そこへ明日香が帰って来た。
「あら刑事さん。怖い顔してどうしたんですか?」と呑気だ。

「これは明日香さん。そんなに怖い顔してましたか。やっぱりこれでは嫁は来ないですな」と言って、一人で笑い出した。

この刑事、美人には弱いみたいだ。

チャンスとばかりマサは
「じゃ俺はこれで。拳ちゃん、また来るから」とそそくさと帰って行った。

「それで刑事さん。犯人はもう捕まえたのでしょうね」と明日香が聞く。

「いや、それはあの、何て言いますか。まだでして、申し訳ない」と武田刑事は謝った。

「しっかりしてください。拳ちゃん二度も襲われたんだから」と明日香は怖い顔で刑事を睨み付けた。

美人の怒った顔は迫力満点だ。

明日香の前では、敏腕刑事も形無しだ。

「鋭意努力します」と言って、武田刑事もそそくさと帰って行く。

ひょっとしたら明日香が最強なんじゃないのか? と、その時俺は思った。