かわいい戦争




走りながらスクールバックを投げつけた。


男性の顔横にカバンがぶつかった衝撃で、肩に置いていた手が放れた隙に、璃汰の細い腕を引き寄せた。



「遅い!遅いわよ!!」


「ごめん、璃汰」


「もう少しで車に連れ込まるところだったんだから!」



わたしの腕の中で、ドンドンッ!とわたしの体を叩く。

ちっとも痛くない。


璃汰の体は、強く握りしめられた拳は、弱々しく震えている。


今にも泣きそうなのに涙がこぼれていないのは、璃汰なりのプライドだろう。



璃汰も、わたしとおんなじ。

弱い、弱い、“女の子”。


強く在ろうとしているだけ。




「いってぇな。何すんだ、てめぇ!!」



男性はわたしを“リタ”と間違ったときとは、正反対の態度。


昨日は狂気的な笑顔だったのに、今はこめかみに青筋を立てている。



「俺とリタちゃんの邪魔すんじゃねぇよ!ブスが!!」



荒ぶった怒鳴り声に、璃汰はわたしの首に顔をうずめ、縮こまった。



「あ……り、リタちゃぁん、ごめんよ大声出して。怖がらなくていいからね?こいつをどっかやったら、また2人で話そうねぇ?」



璃汰を安心させるための猫なで声は、案の定逆効果。


璃汰の震えは止まらない。




「り、璃汰に近づかないで」


「あぁ!?俺はリタちゃんのファンだぞ?ファンがリタちゃんに近づいちゃダメなわけねぇだろ!リタちゃんはファンのものなんだよ!!」


「……どうでもいいよ、そんなの」


「は?」




一歩距離を詰められれば、一歩退く。

璃汰を抱きしめながら。