準備運動もなしに、一方向に駆けていく。
このファッション的にローファーではなくスニーカーを選んだが、こんなところで功を奏するとは、いい意味で予想外だ。
ポツポツ、と頭上に何かが当たる。
雨だ。
ついに降ってきてしまった。
折り畳み傘を差したいが、やめておく。
走るのに邪魔だ。
バイクを避けながら道路を突っ切り、退廃した住宅街の中に遠慮なく立ち入る。
さすがに知らない家にお邪魔して、ベランダから「お邪魔しました」と出て行くのは失礼極まりない。
家と家を隔てる塀をよじ登り、猫が通っていそうな道をバランスよく進んでいった。
塀と一口に言っても、場所によって高さも幅も違うから、油断できない。
神経をすり減らし、スピードを緩めることなく住宅街のエリアを抜けた。
わたしには力はない。
他の子よりもちょっとだけ運動神経がいいだけ。
足が速いだけ。
泳ぐのが得意なだけ。
体力があるだけ。
ただそれだけで、心も体も“女の子”。
神雷のような圧倒的な強さもなければ、弱いなりに戦う術を心得ているわけでもない。
わたしは、とても、とても弱い。



