怖い人に意見をぶつけることに、実はそれなりの勇気を振り絞ってたんだけどな。
通知音に思い切りくじかれてしまった。
ため息をつきながら、ポケットからスマホを取り出す。
こんなときに誰からだろう。
『たすけて』
変換されていない新着メッセージ。
現在の位置情報。
送信主――璃汰からの、SOS。
ヒュッと喉奥に酸素が詰まる音と
ドクンと軋む鼓動に重なって
ピコンッ!
また、通知音が鳴った。
わたしのではない。洋館に入ろうとした高身長の男の子のスマホの音だ。
「なんだよ、またデートの誘いか?だりーな……」
「っ、」
「あ、おいっ!お前!」
頭より体が先に動いていた。
来た道を全速力で引き返す。
突然のことに呼び留めた高身長の男の子を無視している自覚すらなかった。
たすけて。
その4文字が、脳裏を巡って離れない。
行かなきゃ。
助けに、行かなくちゃ。
あの子が、璃汰が、危ない。
送ってきた璃汰の現在地は、繁華街近くの横断歩道。
ここからそこまでは、走っていくとなると最低でも20分はかかる。
「……それなら、最短距離を行くしかない」
大きく振っていた手足を一旦止めて、ルート変更。
最短距離。
わたしの現在地と璃汰の現在地を一直線につないだ距離。
おそらく途中は道ではないし、建物や車などの弊害があるだろうが、璃汰のピンチになりふり構っていられない。
ラーメン屋の出前で鍛えた足腰と体力で、臨機応変に直進するしかない!



