「……悪趣味」
ポツリ、と。
痛いくらい強引に腕を引く手を、恨めしげに睨んでボヤいた。
小さすぎる独白が聞こえたのか、高身長の男の子は顔だけこちらに向ける。
んべ、と弧を描いた口元から舌を出し、挑発された。
舌先の中央を貫くピアスが、夕日に反射してぎらついた。
「なんとなく記憶に新しい道だとは思ってたけど……」
連れてこられたのは、昨日と同じ目的地。
街はずれの大きな洋館。
――神雷の領域。
「また来ることになるなんて……」
私用ではもう来る気なかったのに。
昨日の今日で、展開早すぎる。
「なんだよ、不満かよ」
不満だよ。
それしかないよ。
彼がここに戻りたかっただけに決まってる。
だったらわたしも家に帰らせてほしい。
「ここでデートって何するんですか」
「何って……何も?」
それならやっぱりわたしが帰ったって問題なくない?
そうだよ!修羅場はかいくぐれたんだし!美女たちも見えなくなったし!
わたしの出番、終了じゃない!?
これは帰るしかない!
「じゃ、じゃあ、わたし帰――」
ピコンッ。
――ります、のあとたった3文字が、通知音にかき消された。
高身長の男の子はいつの間にかわたしの腕から手を放し、重厚な扉を開けようとしていた。
わたしの言葉はまた無視?
掴めない自由人だなぁ。
不良って皆ああなのかな。



