かわいい戦争






今日は寄り道せず真っ直ぐ帰るから、昨日より長くお店の手伝いができるぞ!

頑張ろう!


帰路をたどりながら、心の中でそう意気込む。



水彩で描かれたような夕焼け空は、厚い雲に覆われていて。


淀んできた天気を心配しながら繁華街に入った。



あとはこの大通りを直進するだけだ。




「ねぇ、ちょっと利希(りき)!」


「これどういうことよ!」



ん?

大通りの真ん中で、学ランを着た男の子を2人の美女がそれぞれ左右から挟んでいる。


なに?修羅場?



「今日はあたしとデートしてくれるって言ったわよね?」


「違うもん。利希くんはこれからわたしと水族館デートするのぉ!」



……ビンゴ。ガチ修羅場だ。



泥沼な美男美女の恋愛ドラマが現実で起こっているというのに、誰一人立ち止まらず野次馬がいないのは、誰も巻き込まれたくないからに他ならない。


美女の形相が必死すぎて、なんだか怖いんだよね。



わたしからじゃ、男の子の大きな背中しか見えないけれど、とにかく丸く収めてほしいのが、繁華街にお店を営業してる側としての正直な気持ちだ。



ダブルブッキングしてしまった男の子が悪いんだし。

あんな綺麗な女性を2人も引っかけて、堂々と遊ぼうとしていた罰が下ったんだ、きっと。




そうっと修羅場の脇を通り抜けながらも、男の子にちょっとガンを飛ばしたら。




「あ」

「!!!」




飛ばした相手が、まさかの昨日会った高身長な男の子だった。