「それで?」
「へ?」
「頼んでたお弁当は?」
「ああ、はいはい!お弁当ね。はいどうぞ」
すっかり忘れてた。
そうだ、これが本題だった。
自信作のわたし特製のお弁当を渡すと、ぶっきらぼうに奪い取られた。
璃汰が痩せがちなら、このお弁当はちょうどいいかもしれない。
なんたってお弁当の中身は、スタミナ満点メニューにしたから。昨日決死の思いで守り抜いた卵で作った卵焼きは、璃汰の好みに合わせてしっかり甘めに味付けした。
「どうもご苦労さま。それじゃ遅刻するから行くわね」
またね、行ってらっしゃい。
と言おうとしたのに、それすら聞かずに背を向けられてしまった。
塩対応も健在か。
璃汰の“素”を知らない人には、いつだってキラキラなアイドルスマイルで接しているから、わたしの前だと気楽なんだろうな。
ぞんざいに扱っても、わたしはあの子のもの。
決して離れていかないと、璃汰自身も自負しているから。
「わたしにお弁当を頼んだってことは、今日が久し振りの登校だったりするのかな」
テレビや雑誌のインタビュー、モデルにアイドル……。
山積みの仕事の合間に、歌とダンスのレッスンもしている。
努力家な璃汰のことだ。多少の無理くらいしてるんだろう。
頑張ったら頑張った分だけ、報われればいいのに。
必ずそうならないことを知ってるから。
わたしは見守ることしかできない。
璃汰が頑張る理由も知ってるから。
非力なわたしは、願うことしかできないんだ。



