「神雷ってさ、周りには正義のヒーローみてぇに崇められてっけど、やっぱ暴走族で“悪い子”の巣窟なんだよ」
「はあ……」
「だから君みたいな“いい子”は、せめて神雷とは関わるだけにしときな。居座っても、傷つくだけだぜ?」
脳裏に、璃汰が過って。
ドキリとした。
傷つく……。
それは璃汰も例外ではないのだろうか。
「……よく、ご存知、なんですね。神雷のこと」
「まあね」
お客さんはポケットから手のひらサイズの箱を出すと、そこから一本タバコを抜き取った。
カチリ、とライターで火をつける。
「いたんですか?」
「え?」
「傷ついた、子が」
口から、煙が吐かれた。
灰のカスが落ちていく。
わたしが顔をしかめているのは、その煙が有害なせいじゃない。
「いたんじゃね?知らんけど」
やけに適当に答えられて、拍子抜けする。
知らんけどって……そんな曖昧な。
「俺が知ってるのは、女でも神雷にいる誰より“悪い子”だった奴だ」
「えっ、女の子もメンバーにいるんですか?」
「今はどうかわかんねぇが、昔はいたぜ?普通な顔して、普通に居座ってやがった」
「守られる立場として、ですか?」
前に聞いたことがある。
暴走族の一番えらい人が守ると決めた大事な女の子は「姫」と呼ばれる存在になり、片時もそばから離さないそうだ。
もしかしたら璃汰も、その「姫」とやらなのかもしれない。



