かわいい戦争



「あ……あ……」



歯と唇まで震え出して、声すらまともに発せられない。


悲痛めいた表情の歪み具合に、天兒さんは滑稽そうに喉を鳴らす。



「間違ってねーならできるよな?“かわいい”は正義だって息巻いてたくせして、できねぇわけねーもんな?」


「痛っ、」



天兒さんの握力が強まる。

あの細い腕じゃ折れちゃいそう。



痛覚に条件反射で手を引っ込めようとした拍子に、ツ、と天兒さんの口の端を切ってしまった。



顎先へと滴り落ちる、1粒の鮮血。


2粒以降は舌先に舐められた。



「嫌……っ」



それでもたったひとつの赤色で、か弱い心は簡単に揺さぶれた。




「や……は、なし……」


「あ?この程度じゃねーだろ?んなかすり傷で満足すんなよ」


「あ、あたし……っ」


「もっと皮膚がめくれて肉をえぐり取れるくれーやってもらわねーと」


「……っ、嫌……」


「何が嫌なんだよ。てめーはこーいうことがしたかったんだろーが」




まろんちゃんはまた頭を振った。


今度は小さく、何度も何度も。


そのせいで前髪はボサボサだが気にする余地はない。




「ちが……違う、」


「ちがくねーよ。本気で切り裂きたかったんだろ?他人を傷つけんのたのしーもんなぁ?」


「……た、楽しく、な……」


「何言ってんだよ。初めは楽しそーにしてたじゃねーか」


「……っ」