「ちょっとちょっと〜、話が違うじゃん」
わたしだけを制する何とも言えない緊迫感を、階段から下りてきた1人の男の子が和らげた。
物腰柔らかな口調。
性格の悪い男の子と並んでも、全然怖くない。
斜め下で結っている長髪は、ピンクパープルをベースに、毛先につれて明るいラズベリーへとグラデーションになるよう染めている。
左頬にある2つのほくろも、左耳を飾るドクロのピアスも、なぜか、なんか、こう……色気あってエロい。
学ランを羽織らずに肩にかけ、ワイシャツを鎖骨の下あたりまで開けている。かもし出されるフェロモンに卒倒しそう。
あの人も北校在校生なんだろうか。
「あ?なんだよ」
「ここに女の子を連れこんじゃいけないって言ったのどこのどいつだよ〜」
「はあ?」
「俺はちゃーんとルール守ってたのに、そっちが破るなんてひどくね?」
「こいつはいいだろーが、別に」
「その子だけ特別扱い〜?」
「お前の連れてくる女は、どいつもこいつも香水くせーんだよ。それにきめー声出してうっせーし。俺がイケてるから騒ぐのは無理ねーが」
うわ……イケメンとイケメンが言い争ってる。
眺めるだけなら眼福だけど、わたしの話題で口論するのは心臓に悪い。
「だからってなんでその子はいいのさ。意味不明〜」
「なんでも何もこいつはそういうんじゃねぇじゃねーか」
「そうだよ。何を勘違いしてるのか知らないけど、ここにいるのは璃汰だよ?マスクしてるからわかんなかった?」
呆れた様子で助け船を出した低身長の男の子に、学ラン肩かけ男が眉をひそめた。
「こいつはいっつもマスクしてんじゃねーか。芸能人ぶりやがって」
「芸能人ぶってんじゃなくて、芸能人なんだろ」
サイズ感のでこぼこな2人の会話をスルーして、学ラン肩かけ男の眼がわたしを捉えた。



