離さないよ。
今離したら、どっか行っちゃうでしょ?
話し合う機会はきっと今しかない。
「璃汰」
「離してよ!!」
「ねぇ、璃汰」
ごめんね。
自分勝手なわたしは、璃汰の言うことを聞けない。
今は、今だけは、わがままを押し通させて。
「リンカさんの本心を、言葉を、聞いてあげて。そして璃汰も、璃汰の気持ちを伝えて?嘘かどうか判断するのは、そのあとからでも遅くはないでしょ?」
周囲のどんちゃん騒ぎが遠のいていく。
この場だけが別次元のよう。
周りが騒がしいなら、どれだけ大きな声を出しても問題ないね。
「璃汰。あなたはわたしの大事な大事な娘よ。今までも、これからも」
「……嘘よ」
「嘘なんかじゃ」
「嘘に決まってる!!」
わたしの手を振り払いながら怒鳴り散らす。
だが立ち竦んだまま。
お店から出て行こうとはしない。
「ずっとずっとあたしをほったらかして、顔を合わせようとしなかった!物心つく前もあとも、あんたと過ごした記憶なんか無い!あんたの顔よりベビーシッターの顔のほうがよく憶えてるわ」
早口で一気に言い切った璃汰は、肩を上下に揺らし、深い呼吸を繰り返す。
数秒の間を置き、ようやく灰色の瞳がリンカさんを射抜いた。
「あんたはあたしの存在を消したいんでしょ?」
死んだ魚の目のような瞳。
あの灰色は冷めきった闇に侵食されてる。



