だから仲には”佐倉くんって怖いよね”とか、”女嫌いなんでしょ?”とか”よく芽唯ちゃん付き合ってるね”なんて声も少なくなくて。
本当に付き合ってるわけじゃないけど、佐倉のことを悪く言われることには抵抗がある。
佐倉は怖いどころか、むしろすごく優しいし。
女嫌いなんじゃなくて、きっとどう接したらいいのか分からないだけだと思うし。
人の噂も七十五日ってやつで、きっと夏休み明けには私たちのことなんて誰も騒がなくなる。
だから、佐倉と噂されたって私はちっとも嫌なんかじゃない。
「ま、いいじゃん?そのうち本当の恋が始まるかもしれないしね」
「もう、萌菜の頭の中はそればっかり……」
「よし、じゃあ買出し班決めよ〜!男気じゃんけんね」
「つーか、いつやるわけ?」
「え?言ってなかったっけ?8月9日!ハグの日♡」
───だけど。
弥一の耳にだけは、届かないで欲しい。
私に彼氏がいるなんて、弥一だけは勘違いしないで欲しい。
そう思ってしまうのは、どうしてだろう。
……あんなことされてもまだ、弥一のこと嫌いになれないなんて私はどうかしてるのかもしれない。


