もう、我慢すんのやめた




***


暑さで蒸し返す教室の中。

窓の外から聞こえてくる蝉の声が、余計暑さを耐え難いものに変えていく。


教卓では明日から始まる夏休みにおける注意点と題してモアイが長々とお経を唱えているところ。


”夜遅くまで出歩かない”とか
”喫煙、飲酒、喧嘩はしない”とか


聞いてるようで聞いてない時間を過ごしながら、私は頭の中で佐倉のことを考えてる。


この間、お見舞いに行った時の佐倉のお兄ちゃんの態度。あれは絶対に普通じゃなかった。

あれからさらに2日も寝込んだ佐倉が学校に来た頃には、何だかあの日のことを掘り返すのは気が引けて


気にしてない風を装ってしまったけれど。


本当はすごく気になる。


”コイツはちがう”


佐倉の言葉が脳内を繰り返し行ったり来たりする。きっと、佐倉には何か暗い過去がある。


誰にも言えないようなこと?
それとも、あえて言う必要はないから言わないだけ?


……佐倉が転校してきたことと、何か関係あるのかな?


穴があくほど佐倉を見つめながら、ボーッとそんなことを思う。佐倉は机に頬杖つきながらダルそうにモアイの話に耳を傾けている。