私の手首をギュッと握り直した佐倉の手が
あったかすぎて、余計に涙を誘う。


「……佐倉、帰ろ?雨、降ってきちゃう」

「まだ、泣いてたワケ聞いてねぇ」

「っ、」



佐倉、すごいしぶといじゃん。
……私のことなんか放っておけばいいのに。

へぇ、好きなやつに振られたのか
可哀想なやつ……くらいに思ってよ。


そしたら、私だって
こんなに泣くの、我慢しなくて済むのに。



そう、思ったとき。



「……俺の前では、泣けば?」



まるで、私の心を読まれたのかと思った。
グイッと私の手首に力を込めて、その反動で立ち上がった佐倉のいつもの柑橘が

優しく鼻を掠めた。


……頭の中が、佐倉でいっぱいになる。
佐倉の匂いに包まれて何も、考えられなくなる。


張り詰めてた糸がプツンと途切れたみたいに、ボロボロと涙が溢れて。


───ポツ、ポツポツポツ……


タイミングを見計らったように空から大粒の雨がアスファルトを黒い水玉模様に染めていく。




次の瞬間、ザ───ッと土砂降りになった。