もう、我慢すんのやめた



「……なんで?」

「いや、だから!」

「ほんとに?……もう、俺のこと何とも思ってない?」

「っ、思って、ない……」


弥一が分からない。
あんなに弥一が好きだったのに、あっさり他に彼女を作ってしまった。


「……思い出せよ、俺のこと」


弥一の言葉を理解するより先に、グッと目の前まで迫った弥一の整った顔を目で追えば

ピントが合わないまま


くちびると、くちびるが、触れた。


勝手に彼女作って、どんどん距離が開いて。

久しぶりに向き合って話したと思えば、 突然こんなことする。


───バチンッ


乾いた音が非常階段にやけに響き渡った。


「っ……弥一、変だよ」

「ハッ、芽唯、変わったな」


頬を抑えるでもなく、怒るでもなく、この期に及んでヘラヘラしてる弥一に涙が出てくる。


「変わったのは、私じゃない」


弥一だもん。


私の知ってる弥一は、優しくて、一緒にいてホッとして、落ち込んでると笑わせてくれて、いつも周りのために動ける人だった。


今、目の前にいるのは一体、誰なんだろう。