もう、我慢すんのやめた



そのまま、佐倉の顔を見られなくて。
逃げるように走り出した私を、もちろん佐倉が追いかけてくることはなかった。


……きっと、佐倉なりに私を心配してくれてのことなのに。思い返せば思い返すほど、今になって後悔ばかり溢れてくる。


どうして昔から弥一のことになると、私は冷静でいられなくなるんだろう。


浅い呼吸を繰り返して、乱れた息を整える。


角を曲がればそこには、
非常階段に腰かけた弥一がいて。


───トクンと、静かに胸が高鳴る。


「ごめん、遅くなって……!」


駆け寄る私に気付いた弥一は、あの頃と変わらない顔で笑って


「遅い」


ポンポンとわたしの頭を撫でる。


好きだった、この手が。
大好きだった、この笑顔が。


「ごめん、ちょっとクラスの子と話してて」

「……さっきの、芽唯を呼び捨てで呼ぶ男?」

「え……?呼び捨て、あぁ……テツじゃなくて」

「"テツ"って、下の名前?」


目の前にいるのは、間違いなく私の幼なじみ。
ずっと、ずっと、大好きで

あわよくば彼女になりたいなんて


そんな夢を見ていたことすらある相手。