離れる瞬間ですら、相変わらず佐倉からは柑橘のいい香りがする。
私を包み込んで、一瞬で酔わせてしまいそうなくらい、懐かしくて、程よく甘いそれ。
「……ほんとどんくせぇ。俺から離れたいんだったら、その危なっかしいの治せよな」
「っ、」
コツン、と私の頭を小突いた手にビクッと跳ねる私の肩。……そんな私の反応を見て、ハッとしたように離れていく佐倉の手。
違う。
佐倉に触られるのが嫌なんじゃなくて、ただ久しぶりに触れられたせいで、すごくドキドキした。
まるで、熱いものに予期せず触れてしまった時みたいに、そのまま触り続けたら火傷してヒリヒリしちゃうみたいに。
佐倉に触れられると、熱を持って消えない。
「あの、ごめん違くて」
佐倉から離れるって自分で決めて、弥一のそばを選んだくせに。
今のことを言い訳して、佐倉に誤解されたくないって思ってる自分には本当に驚く。
「ばーか、冗談だよ。で?もうすぐ授業始まっけど、ここで何してんの」
この期に及んで、まだ佐倉嫌われたくないなんて。


