もう、我慢すんのやめた


ギュッと強く目をつぶって痛みを覚悟すれば、


「っ、わ!?」


突然、違う方向からグッと強い力で引き寄せられて一瞬、心臓が踊った。

だけど、おかげで体を襲う痛みはなくて、強ばっていた体が一気に緊張から解放された。


状況を確認しようと、目を開ければ


フワッと揺れる明るい茶色。

爽やかに香る、甘すぎない柑橘。


あ、って思った時にはもう。
ドキドキとうるさく鳴り響く心臓の音。



「ちゃんと前みろよ、危ねぇから」

「さ、佐倉……」



なんで、ここにいるの?

そんな疑問を抱いたけれど、私を支える手とは反対の手に持っているペットボトルを見つけて、自販機の帰りかな……って勝手に察した。


そんな私たちを黙って見ていた男子生徒は、靴の色からして、私たちと同じ2年生で。バツの悪そうな顔で「わりぃ、大丈夫か?」って控えめに呟いた。


「こっちこそ!……前見てなくて、ごめんね」


私も申し訳ない気持ちで頭を下げれば、ホッとしたように首を振った男子生徒は「じゃあ」とそのまま階段へと消えてしまった。


取り残された、佐倉と私。
未だに佐倉に支えられていることを思い出して、


「っ、……佐倉、ありがと。もう大丈夫だから!」


咄嗟に数歩距離を取った。