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あの後、チームメイトに呼ばれて『今度ゆっくり』なんて言い残した弥一は部活に戻ってしまった。


モヤモヤした気分は簡単には消えない。


「……なに、あれ元カレ?」

「違う、ただの幼なじみ」

「へぇ。ま、俺には関係ねぇけど」


地面に落ちていた自分のリュックを拾って、パンパンと土を払った佐倉。


聞いといて、その返事?なんて思ったけど、確かに佐倉には関係ない。


「佐倉、家どこ?送るよ」

「は?なんで送ってもらわなきゃなんねーんだよ」

「だって、背中痛いでしょ?おんぶは無理だけど、せめて支える」

「馬鹿じゃねぇの。あんな痛み、もう治ったし」

「嘘、私……てっきりこの先2週間はこき使われる覚悟してたのに」



"マジの馬鹿だな"なんて、小さく笑った佐倉にビックリして目を見開く。

うわ。佐倉も、笑えるんだ。


思ったよりヤンチャで、どこか子どもみたいな。
笑った顔はいつもよりぐっと幼い。


ギャップ萌えかよ。


きっと言ったら、その笑顔はすぐに消えて。
代わりにこれでもかってくらい赤面して怒るんだろうから、言わないでおこう。


今はもう少し佐倉の笑顔、見てたい気分だから。