長月遥はうんと椅子に座ったまま伸びをする。教室。四月だ。

「リアリズムの桎梏か」とイデアル。女子高生だ。

「善いものを善いと感じられるのは恩寵(Grace)ですよ」

「確かにそうかもしれないな。

芸術はそれゆえ、遍くひとびとの人生の恩寵を表現するものだろう」

リンネが指摘。春の教室で。

「我々、草双紙でそれを知ったもの。
泉鏡花だと思うが」とリンネ・・・。

「それら芸術は一時期リアリズムを一つの手法ともし、が、芸術を軽視したリアリズムは次第に恩寵から離れたもの」と長月遥。

「そうだな。

ゴンブレーの鐘の音のように、遍く恩寵(Grace)によって、われわれを支えるものが芸術だから」

「そういえば、ゴンブレーというのは小さなフランスの街でしたね」