彼の顔が近づいてくる。
 それに気づいた時には、もう彼に唇を塞がれていた。
 予想だにしない彼の行動に、夕映はその場に固まってしまい体を動かせなかった。
 けれど、キスはとても短いものですぐに斎の柔らかな唇は離れてしまった。
 そして、額同士をくっつけたまま、斎は「キスだってする。」と、ニヤリとしたイタズラっ子のような笑みを見せたのだ。


 「…………なっ……。」


 夕映は「なんで、」と言葉を続けようとした。けれど、その瞬間周りから「キャー!!」と、歓声というよりは悲鳴が上がったのだ。
 夕映が驚いて周りを見たときには、結構な人数のギャラリーがいたので、目を大きくして驚いてしまった。
 そして、何よりそんな大学の人たちに、斎とのキスシーンを見られてしまったのだ。
 それが何よりも恥ずかしくて、その場から逃げてしまいたくなったけれど、手は斎にガッチリと握られているので、離れることが出来ない。


 「斎っ!な、何してるの!?離してよ。」
 

 彼の耳元で内緒話のように小さな声で抵抗の声をあげるけれど彼はニヤつくばかり。


 「これで、大学のやつらにも公認だな。」
 「っっ!!」


 斎の言葉に、夕映は絶句した。

 彼は、大学の生徒達に自分達の関係を伝えるためにわざと、このような事をしたのだ。
 この騒ぎならば、人伝に噂が広がって明日にはほとんどの人たちがこの事を知るだろう。それを考えただけで、夕映はくらりと眩暈がしそうだった。

 今でもすごい視線なのに、明日からはこれ以上なのだ。


 夕映は小さくため息をついて、波乱の大学生活の予感を感じていた。