車内では、夕映がどんな仕事をしているのかなどを神楽に話した。


 「夕映様のお話しを聞けて嬉しかったです。頑張っていらっしゃるのですね。」
 「まだまだですけど……でも、楽しく仕事をさせてもらってます。」
 「そうですか、それはよかった。………夕映様は、斎様のマンションに行かれた事はありますか?」
 「いえ……私、斎と付き合ってるわけじゃないので。」
 「そうでしたか。申し訳ございません。斎様が、いつもよりとても楽しそうにしていたので、そう思ってしまいました。」
 「楽しそう………。」


 神楽の言葉を聞いて、夕映は考え込んでしまった。
 斎は自分と居る事で喜んでいてくれているのだろうか。それは小さい頃から見てきた神楽だから気づいたのかもしれない。けれど、その事は、夕映にとって嬉しくも切ない気持ちにさせた。
 先ほど、彼をあんな顔にさせてしまったのだから。

 頭の中には、泣きそうな彼の顔が何度もちらついていた。



 「少し前に、斎様にお届け物がありまして、今住んでいるお部屋にお邪魔した事がありました。その時にたまたま見つけたものがありまして………きっと、夕映様が見たら驚くと思います。」
 「え………。私が驚くものですか?」
 「はい。ですが、それは内緒です。」
 「………気になります。」
 「教えたら、私が斎様に怒られてしまいます。」

 
 クスクスと笑いながら、神楽はフロントミラー越しにこちらを見つめていた。
 彼の部屋にあるもの。夕映が驚くものなど、想像もつかなかった。斎が何を隠しているのか、わかるはずもなかった。


 「夕映様。あの方は、完璧に見えて、不器用な部分がある方でございます。」
 「彼が?」
 「はい。……なので、斎様の隠れたお気持ちを汲み取ってあげてください。夕映様ならば、斎様も拒むことはないはずです。」
 「そう、でしょうか………?」
 「ええ。私はそう感じております。」


 神楽が何を思ってそう言ったのか、うっすらとはわかっていた。
 けれど、何も話してくれない彼の何をわかって信じればいいのか。
 
 彼の本当の気持ちをどうやって理解すればいいのか。
 それが、夕映にはわからなかった。


 車から見える景色はすっかり夜になっており、流れ星のように車の光が次々に過ぎ去っていく。
 それを見つめたあと、夕映は目を閉じた。

 すると、斎が笑った顔かが浮かんでくる。
 また、彼は私を見てそんな表情を見せてくれるのだろうか。
 そんな事を思い、夕映は小さく息を吐いたのだった。