8話「好きになるには」




 彼の声だけが耳から入ってくる。
 懐かしくも少し大人になった斎の声。
 その声が夕映の体を巡って、感情が溢れてきそうになった。
 けれど、その気持ちが何なのか。
 夕映は気づかない振りをするしかなかった。

 
 「そんな再会したばかりなのに、そんな事言われても……。」
 「再会したばっかりじゃないだろ。気持ちを伝えてから少し時間空いたんだから、考える時間あっただろ?」
 「………それは。」
 「それに悩むってことは、俺と付き合いたいって思いもあるって事だよな?」
 「あ………っ………。」


 また、彼の顔が近づいてくる。
 今度は、啄むように小さなキスを何回か繰り返された。
 彼の行動に翻弄されながら、夕映は斎の言葉を思い返していた。
 キスをされても本気で逃げなかったり、彼の手を振りはらったり、そして告白の返事を濁したり……そんな事を夕映は繰り返していた。
 その理由は、彼が言った通りだ。

 夕映は彼にまた惹かれているのだろう。
 
 けれど、快く承諾の返事が出来ないのは理由があった。
 それはやはり過去の出来事が原因だった。