「そろそろ、予約時間が終わる頃だな。きっと二次会にも行くだろうけど。」
 「え………もうそうな時間なの?」


 夕映は腕時計が示す時間を見て、驚いてしまった。あっという間に1時間以上話していたのだ。
 まだ話したいな、という気持ちが強かったのか顔にも出てしまったのだろう。斎は「なんだ?まだ2人で話したかったか?」と、笑いもせずに聞いてくる。
 その返事に戸惑ってしまうと、斎は小さな声で内緒話をするように言った。



 「……ここから抜け出すぞ。」
 「え、でも、みんなにバレちゃうよ。」
 「ここは俺の知り合いの店なんだよ。俺が店長と話をつけて、スタッフルームに入るようにしとくから。あとで俺もそっちに行く。」
 「え、ちょっと…………。」
 「じゃあ、後でな。」



 そう言って椅子から立ち上がり、キッチンにいたスタッフに挨拶をしながら世間話を始めた斎を、夕映は呆然と見ていた。

 今は恋人でもない、そして恋愛感情があるはずもないと思っていた人と、ふたりで飲み会を抜け出そうとしている。
 そんなことしなくてもいい。

 そのはずなのに、彼から離れたくないと思っている自分に夕映は逆らえなかった。