夕映はそこから本を見ようとした。その時、ソファの前にあるテーブルに数冊の本が置いてある事に気づいたのだ。
 そして、それは見たことあるものばかり。

 
 「これって………私が翻訳した本………。」


 そこには、夕映が今まで翻訳した本が置かれていたのだ。初めて出版されたものから、最近のまで、全てが置かれていた。
 斎は夕映と別れたあとも、こうやって本を買って読んでいてくれたのがわかった。
 夕映は1冊手に取って見ると、何回も読んだのか、少し汚れている部分があった。
 そして、中身を開くと、夕映は更に驚く事になった。

 所々に赤ペンで線がひいてあったり、時々「この訳は?」などと、コメントまで書かれていた。


 それを見て、夕映はすぐに学生の頃を思い出した。
 夕映が洋書の翻訳をして、斎がチェックするという事をしていた。赤線はいい訳だと思うと引いてくれて、コメントは訳し方が間違っているのではと思われる所に書いてあったのだ。

 それを斎は恋人ではなくなった後にもやってくれていたのだ。
 
 夕映は、それを見つめながら、またボロボロと泣いてしまっていた。自分はこんなにも彼に愛されて、会っていない時でも斎は思ってくれていた。それが嬉しくて仕方がなかったのだ。



 「………こんなのずるいよ。斎、優しすぎる。」
 「俺が何だって?」


 突然、後ろから抱き締められて、夕映は泣き顔のまま驚いて後ろを向いてしまう。
 

 「おまえ、何泣いてるんだ……。」
 「あ、ごめん………。この本、見てたら嬉しくて………。」


 夕映が持っていた本を見せると、斎は恥ずかしそうにしながら「あぁ……それ、見たのか。」と微笑んだ。
 

 「こんなにチェックしてくれたり、褒めてくれたりしてたんだね。……沢山本を読んでくれてありがとう。」
 「……採点みたいな事されて嬉しいのかよ。」
 「うん。懐かしかったし、それに斎にいろいろ教えてもらうの好きだから。」


 そう言って、涙を拭きながら線が沢山入った本を見つめていた。
 少し前に神楽が教えてくれたのはこの事だったのだなと、夕映は思っていた。