「……斎くんを少し貸してほしい。」
 「え………。」
 「……少しの時間だけでいいの。……恋人がいるのに告白するのが間違ってるのはわかってる。けど………、私の気持ち伝えておきたいの。……斎くんは、迷惑かもしれないけど。私が前に進むために。」
 

 少しオドオドした様子だった。けれど、南の瞳はまっすぐに夕映を見つめていた。
 南は斎の答えがわかっているかのようだった。夕映も彼を信じているし、南に渡したくない。そう思っている。
 本当ならば告白なんてしてほしくない。可愛い南に「好き。」なんて言われて嬉しくない男性はいないだろう。
 けれど、夕映には断る事なんて出来ない。
 自分の気持ちを相手に伝えるのは、誰にも口を出せない事なのだから。



 「……今の時間は斎は講義とってないから図書室いると思う。」
 「夕映ちゃん……。」
 「私は斎の恋人だけど、斎が誰と話すかなんて決めるのは違うから。」
 「ありがとう……夕映ちゃん。私行ってくる。」


 うっすらと安堵して微笑んだ南に返事の代わりに頷いて、小走りで駆けていく南を夕映は見送った。

 不安はない、と言った嘘になる。
 けれど、恋人として今は何もするべきではない。待っている事しか出来ないのだ。