保育ルームの隅にある、アップライトピアノ。
お遊戯室のグランドピアノよりも質素なそれは、調律の間隔が開いているのか、たまにおかしな音がしていた。
音程も若干変だ。
だけど、桜庭家のキッチリ音が合っていたピアノよりも、このピアノの方が私は好き。
音はあっていなくても、このピアノと子供達の声がぴったりと合っているからだ。

何の曲にしよう。
本番は、得意な曲でいいって書いてたな。
あ…………そういえば。
学校の音楽室で、奏太の子守唄代わりに弾いてた曲があったっけ?
子守唄……じゃなかったけど『これが良く寝れるんだ』と言っていた曲。
私は暫く御無沙汰だったメロディーを両手で奏で始めた。
弾いてなかった割には、ブランクを感じさせない演奏になっていると思う。
うん、問題ない。
問題ないけど……足りないものがある。
それは………ああ、そうだ。
波の音、そして……寝息をたてる幼なじみ………。

少しセンチになったじゃないかー!!
奏太のアホ!
ピアノの音が、私の感情と同じように跳ねた。
狂った音程が、曲の物悲しさを打ち消していって、次第に私は笑顔になった。
そんなおかしな演奏を、ドアの向こうで聞いている人がいたなんて、その時は考えもしなかったのだけど。