「久しぶりだな、すずな嬢。行方不明からの生還、無事で何より」

あの……無事で何よりって顔してないんですが。
どちらかというと、死んでないのか、残念って感じ。

「初めま………っ、お久しぶりです。その節はご迷惑をお掛けしました」

気迫に押されてビビった私は、思わずNGワードを口走ろうとして、少尉さんに肘で小突かれた。

「ご無沙汰しております、鶇(つぐみ)様」

「ああ、冬島くん、君も久しぶりだね」

御姉様は少尉さんを見て少し眼を細めた。

「提督閣下から手紙をお預かりしております」

「ん、どれ?見よう」

丁寧に折られた手紙を少尉さんは御姉様に恭しく手渡す。
そして、また私の隣に戻ると、心配ないというように頷いて見せた。
御姉様はお勉強が出来る人みたいなメガネをスッとかけると、提督さんからの手紙を目で追った。

「へえ、すずな嬢、記憶がないのか?」

と、私をチラリと見て、また手紙に目をおとす。

「は、はい」

「ほう……ふんふん……」

何が書いてあるんだろう。
うぅ、気になる。

「なるほど……死にかけて人が変わったって?本当か?そんなタマじゃないだろう?もし、鷹人をまた傷付けようっていうなら今度は……」

今度は、って何ですか!?
何されるんですかーー!
御姉様は立ちあがり、ゆっくりと私の前に立った。
至近距離で見ると背も相当高い。
圧倒されて見上げていると、少尉さんがすかさず私と、御姉様の間に滑り込んだ。

「鶇様。提督閣下はお嬢様に危害を加えることをお許しになりません」

それを聞いて、御姉様は目を大きく見開き言った。

「これは珍しい!冬島くんがすずな嬢を庇うなんて。面白いことがあったものだ」

「私はいつも職務に忠実ですので、当然です」

少尉さんは顔色を変えず、目線をずっと御姉様に向けている。
暫くその状態がつづき、根負けした御姉様がふっと軽く笑うと、部屋の緊張も解かれた。

「わかったよ。鷹人からも言われているしね。何もしない。それで、手紙にはここで花嫁修業をすると書いてあるが、本気か??」

「ふぁっ!?」

聞いてない聞いてない!
仕事がどうして花嫁修業になるの!?

「まぁ、勉強にはなるだろう。世界のことも学べるし、飯炊きから洗濯から家事全般、やることはたくさんあるぞ。乳幼児のオムツ替えなんかも仕事だ」

それは……なんて遣り甲斐のある……。
でも、仕事というより……良き母育成講座??
はっ!!
そうか、それで花嫁修業か!

「えっと……はい。なんでもやります。頑張ります、お願いします」

花嫁になる予定はないけど、ドンと来い!
いや……なるべく優しくドンと来て……。