「提督さん!」

私は振り返り、手招きをした。
エレベーターの前で立ち止まったままの提督さんは、何故かとても嬉しそうな顔をして小走りでやって来た。
ボールを投げたら咥えて走ってきそう……は、言い過ぎか。

「こんな素敵な場所があったんですね!ありがとうございます、連れてきてくれて」

「喜んでくれてよかったよ」

「ここは、住民の皆さんは良く来るんですか??」

「いや、ここにはエレベーターでしか来れないからな。もともと、デッキには軍部の者しか上がってこない。海獣が現れた時の迎撃の為にある場所だからな」

「海獣………」

前に少尉さんに聞いたことがある。
海獣というものに脅かされているって。
でも、ここに来て海獣に出会ったことはないし、那由多が襲われたことはない。
本当にいるの?と思うくらいだ。

「海獣って、どんなものなんですか?」

「どんなもの……か、そうだな……」

提督さんはその場に座り、私もその横に座った。

「人類が海で暮らすようになって暫くして、巨大化した海洋生物が現れるようになってな。奴らは主に深い海溝に生息しているんだが、たまに浮上してきて船を襲うことがある。奴らは気まぐれで運が良ければ沈没させられることはないが、運が悪ければ………」

「沈没……ですね。でも、いくら巨大といっても、この船より大きいなんてことは」

「いや、モノによるがオレの見たことのあるやつはこの船と同じくらいだった」

「この船と同じ?……そんな大きなものに襲われたら終わりじゃないですか!?」

「ああ、だから、出会わないようにこちらが避けているんだよ」

「そんなことが出来るんですか??」

提督さんは体育座りから胡座へ姿勢を変え、一息つくとまた語り始めた。