「知りたいです。忘れていることは、何でも知っておきたいんです」

「知りたい………か。うん、じゃあ教えてやるが……後悔するなよ?」

「はい、もちろん」

「………結城はな、すずな嬢がこの船から逃げる時一緒だった男の……兄だ」

「え…………」

……うわ………最悪………。
駆け落ち相手の兄だなんて。
ブリザードが吹くのも当たり前だ。
すずなお嬢様が誑かして逃げたとか?
でも「私が誑かしたんですか?」なんてとても聞けない。

「……弟さんが……すず……私と逃げたんですか?あの、もう少し詳しく……」

「結城の弟は、軍部の大尉でな。名前は結城奏二。年は二十。両親は既に他界していて、二人だけの兄弟だった。だから余計に、結城はすずな嬢を恨むんだろうな。たった一人の家族だったわけだし」

……本当に酷い話だ。
もう!すずなお嬢様なんてことしてくれてんの!

「すずな嬢と奏二の出会いがどうだったか、どういう付き合いだったのかは良く知らん。ただ、私は一度だけ二人が一緒にいるところを見たよ。とても楽しそうだったな」

「そう、ですか……」

「そして、ある日突然、彼らは船を降りた。それが自殺行為だと知っていた筈なのに……」

理由はわからないのかな?
どうして二人がここから逃げたのか。
それを聞こうにも、もう2人ともいないし、真実は闇の中?
ただ、結城大佐が私を恨む原因はわかった。
いやいや、私じゃない!すずなお嬢様をだ!!

「ところでな………」

と、御姉様が突然話題を変えた。
何の話かな?剣道のこと?他のこと?と、私は話題が変わったことに少し安堵した。
だがしかし!!
御姉様が次に放った言葉に戦慄することになるなんて……一体誰が予想しただろうかっ!!