ーーーーー「奏太の子守唄」。
本当のタイトルは、フレデリック・ショパンの「別れのエチュード」。
いつも思っていたけど、この旋律はとてもノスタルジックだ。
掴もうとして、掴めない、そんなジレンマを抱えながら、結局は離れていく男女の恋のように………。
それと同時に、思い出すのは夏の音楽室。
山の影になり涼しい音楽室は、みんなの溜まり場になっていた。
主に私と奏太のだけど。
ただ静かに流れる時間の中で、私達は一言も口を聞かなかった。
寝ている奏太の横で、ピアノの練習をする私………。
そんな夏の情景に想いを馳せながら、ただ心のままに鍵盤を叩いていると、辺りの様子が一辺しているのに気付いた。
会場の何処かから、誰かの啜り泣く声がする……ような気がする。
気のせいか、と思っているとそれはだんだんと数を増やし会場内を異様な雰囲気に変えていた。
最初と同じ旋律が、最後になってまた現れる。
すると、ズズッという盛大に鼻を啜る音が一斉に聞こえた。
怖い怖い!!何?心霊現象なの?
それとも集団嫌がらせ!?