「あ、あ、あなた!?」

「は、は、はいぃぃ??」

「敵を応援するものじゃなくてよ!!」

「………だって、素晴らしかったし……大原さん、とても可愛くて……」

「な!?」

な!と一つ叫ぶと、大原さんは彫像のように動かなくなった。
電池切れとかじゃないよね?
ゼンマイ仕掛けとか?いや、まさか。

「………………ぁりがとぅ………」

何だって??
やっと口だけ動いたのに、最初と最後が聞こえませんよ??

「えーと、何でしょう?ちょっと良く聞こえな………」

「ありがとうって言ったのよ!!もう、あなた耳が悪いんじゃない??」

おおぅ……お礼を言われた、そして、ついでに悪口も言われた!
大原さんはプルプルと真っ赤になって俯くと、そのまま隣のパイプ椅子にどっかりと座り込んだ。
………何だか、可愛い人だな。
と、悪口を言われたにも関わらず私は少し大原さんのことが好きになっていた。

「それでは次!すずな嬢。準備を」

はいはい、それでは行きますか。
私は立ち上がり、ピアノの前に移動するとペコリと頭を下げた。
壇上から見下ろすと、フレディと提督さん、少尉さん、あと後ろの5才組さん以外の敵意が凄まじいのが良くわかる。
普通は挨拶をすると皆静かになってくれるもんだけど、聞く気がないのか嫌がらせか、ざわついていた。
確実に歓迎はされてない。
でも、信じてくれてる人達の信頼は裏切っちゃいかんよね?
私は、ピアノの前に座り、スウッと息を吸った。
未だかつて、望まれない中でピアノを弾いたことなどない。
聞く気のない人の前で弾く……それが逆に、ほとんど持ち合わせない私の闘争心に火をつけた。
静かに指を鍵盤に下ろし、旋律を奏で始める。
するともう、ピアノの音以外、何も聞こえなくなった。